「Birdsong」最初のレビューがWRTI Philadelphia に掲載されました。
今、彼女は自らの人生に素晴らしい経験を与えてくれたチャーリー・パーカーへのお返しの意味も込め、そしてそれらのお気に入りのレパートリーに自らの新しい人生を歌いこみ、演奏しています。
「Birdsong」は、パーカーへ捧げられた音楽の多くがはまってしまう罠を巧みに避けています。
それはパーカーの有名な演奏をただ単にコピーした短絡的なレコーディングにはなっていないという点です
「Birdsong」最初のレビューがWRTI Philadelphia に掲載されました。
WRTI Philadelphia by Maureen Malloy
チャンピアン・フルトンが人生で最初にギャラを貰ったギグは、クラーク・テリー75回目の誕生日パーティーでした。 当時彼女は10歳。
現在、35歳になったピアニスト兼ボーカリストは、単に早熟で有名ミュージシャン達とのつながりが深いだけではなく、野心的でもあり2007年、デビュー以来、毎年平均1作の割合で新作をリリース、発表しています。
しかし、このチャーリー・パーカー生誕100周年に合わせリリースされた彼女の最新作、「Birdsong」は、これまでで最も自由で楽しい作品かもしれません。
それには理由があります。
チャーリー・パーカーの音楽は、彼女の人生が始まった瞬間から、彼女の音楽のメインフレームに組み込まれたからです。
彼女の父であるスティーブンは、(娘のカルテットと共に長年演奏しています)ここでもフリューゲルホーンにて参加しているプロのトランペッターです。
彼は自分の子供が「これまでで最も美しい音楽」を伴ってこの世界に生まれてくることを真に望んでいました。
その音楽とはノーマン・グランツがプロデュースした「Parker with Strings」でした。
その伝説的な音楽が録音されたカセットは、彼女の母親が妊娠中、また分娩室でもずっと流され続けていました。
バードの音楽は、未来のジャズミュージシャンになるであろう彼女にとって、この世で送ってゆく人生のイントロような音楽になりました。
今、彼女は自らの人生に素晴らしい経験を与えてくれたチャーリー・パーカーへのお返しの意味も込め、そしてそれらのお気に入りのレパートリーに自らの新しい人生を歌いこみ、演奏しています。
このアルバムの各曲は、パーカーによって書かれたか、そうでなければ彼によって有名になった曲から選んでいます。
その中の3曲はその「Parker with Strings」からです。
しかし、このアルバム「Birdsong」は、パーカーへ捧げられた音楽の多くがはまってしまう罠を巧みに避けています。
それはパーカーの有名な演奏をただ単にコピーした短絡的なレコーディングにはなっていない、という点です。
パーカーの有名な曲や演奏を選び、パーカーと同じような音を出すのがミュージシャンにとっての課題であるかのような、そのオリジナルに対してのただのコピー的再録にはなってはいません。
チャンピアンにとってパーカーとはただ単に勉強する対象では無く、クリスマス音楽と同じような、もっと個人的に身体に染み付いている音楽なのです。
このアルバムで我々が聴けるのは、そういう彼女の人生の個人的な成長に影響を与え、それを自分なりに消化したところから生まれ出たチャンピアンによるパーカーの音楽なのです。
そこが多くのパーカーに捧げらたアルバムとの違いです。
彼女は長年のメンバーであるHide Tanakaベース、Fukushi Tainakドラム、そして彼女の父親であるスティーブン・フルトンのフルーゲルホーンに支えられています。
そして今だ賛辞が絶えることの無い現代ジャズサックスの真の革新者、パーカーに捧げる今回のアルバムに参加する特権と、それに伴うプレッシャーに耐えうるサックス奏者には彼女が過去数年間、特に2017年のスペインのライブで頻繁に演奏したベテランのテナーマン、スコット・ハミルトンが選ばれました。(彼とは2017、スペインでのライブレコーディング ”The Things We Did Last Summer”があります)
このアルバムは「Parker with Strings」からパーカー自身のお気に入りの1つである「Just Friends」から始まります。
この曲がパーカーの最も売れたシングルレコードであることを知って驚く人もいます。
この曲は彼女のバンドのお気に入りの1つでもあります。
しかしパーカーの稲妻のような即興的フレーズを期待しないでください。 この曲はあくまでチャンピアンのボーカルがメインです。
彼女の声は高めでどちらかというとエラ・フィッツジェラルド的ですが、ハミルトンのレイバックしたメロディックテナーサックスソロと相まって、あの素晴らしいエタ・ジョーンズとヒューストン・パーソンの組み合わせを思い起こさせます。
ハミルトンは、パーカーの最も象徴的なオリジナルの1つである「Yardbird Suite」では伸び伸びとソロをとっています。そしてここで印象的なのは、サックス奏者としてのハミルトンとパーカーの違いです。
パーカーの演奏の根底にあるのは、自分のアイデアを絶対に今ここで表現しなければ死んでしまう、というような危機迫った直感的感覚です。
それはクールな均衡の縮図であるハミルトンとはまったく異なります。
多くのサックス奏者達のいかにパーカーみたいな音を出せるか、というようなトリビュートアルバムはあまりにもたくさんあるので、逆にこのような気質の著しい違いを持つ奏者によるパーカー音楽へのアプローチを聴くと非常に新鮮です。
次の「This is Always」、パーカーがカマリロ州立病院から退院して間もない1947年に録音されたバラード。
この曲はパーカーに捧げられたトリビュートアルバムには今までほとんど取り上げられた事がありませんでした。それがチャンピアンとそのバンドによって、ここに美しい解釈で表現されており、あなたの心中からしばらくは離れないような音になっています。
次は1951年Verve Records、パーカーによる解釈の素晴らしさのためこの曲のジャズ演奏基準となった「Star Eyes」が続きます。
この曲で我々はチャンピアンの声の微妙な優雅さを感じとります。 スタンダードジャズボーカルの表現者として、現時点でこの曲をこれほど上手く扱っている人はいないでしょう。
パーカーのオリジナル「Quasimodo」は、いくつか続いたクインテット、ボーカルからシンプルなアンサンブルを特徴としたホーン無し、ピアノトリオだけの演奏です。つまりベーシストHide Tanakaの出番となります。
「All God’s Chillun Got Rhythm」では、チャンピアンはバド・パウエルとアート・テイタムを同時にチャネリングしてしまったような魔法の組み合わせで、これまで隠されていた格闘家のような本性をあらわします。 またFukushi Tainakaの印象的なアップテンポでのブラシワークが輝きを放ちます。
「Out of Nowhere」「If I Should Lose You」この2曲の聴きごたえあるスタンダードはWith Strings Sessionsから。
「If I Should Lose You」は最初にパーカーの音楽をチャンピアンに紹介した人、つまり彼女のお父さんのフリューゲルホーンをフューチャー、そのソロが際立ち、「Out of Nowhere」では「ポインシアナ」のようなアレンジメントになっています。
一方、Kernz & Mercer作曲の「Dearly Beloved」では、テナーサックスのハミルトンの徹底的にクールなスタイルと感性が強調されていてこのアルバムでの彼のベストかもしれません。
賢明にもアルバムを閉める最後の曲にはパーカーのオリジナル「Bluebird」が選ばれました。
チャンピアンの威厳に満ちたブロックコードのソロ、それとは対照的にハミルトンとスティーブンの間に交わされる遊び心溢れる一連の掛け合いで9分以上にもなるブルージーな「Bluebird」はアルバムと共に終わります。
あるミュージシャン達にとっては過去1940〜1950年代あたり、ビート世代(Beat Generation)の音楽を懐かしみ、それを真似する事自体が目的になってしまう、というトリビュートアルバムによくありがちな落とし穴の多くを避け、「Birdsong」の内容の濃い、地に足のついた音楽は今でもチャーリー ・パーカーが生きている事を証明しています。